※切嗣とセイバーが会話する、マスターに宝具触らせてる、俺達の戦いはこれからだエンド


「セイバー」
 青と鎧を纏った少女騎士は、目を見開いてマスターを見上げた。
 邂逅から今まで話すことはなく、視線すら交わらなかった己が主が――自分から声を掛けてきたとなると、さすがの彼女も驚いて当然だろう。返事すらもできなかった。
 黒いコートと背広を纏った男は、煙草を指に挟み、宙に紫煙を吐き出す。
「君は聖杯が欲しいかい」
 衛宮切嗣は静かに問うた。
「――愚問です、切嗣。私は聖杯を求めて貴方の召喚に応じた。お互いそれは承知のはずでは」
「ああ、そうだね。――そして僕も聖杯が欲しい。いや、得なければならないんだ」
 美しい白銀の髪をした、妖精のような妻も。寡黙ながら厳しく、優しく、尽くしてくれた女性も。消えていった彼女達は切嗣の願いに賛同していた。
 そして自分も、未だ望んでいる。犠牲を払ってでもそれを得たいと思っている。
 男は吸殻をぽいと地面に捨て、靴底で火を踏み消した。
「だから僕は君を使う。あいつを倒さない限り聖杯は得られない。そのためには君の力が必要だ。……協力してくれるかい」
 そう言う声はほんの少し、ほんの少しだけ、揺れているように聞こえた。
 セイバーは自分のマスターのことを、非情で無感情な男だと思っていた。家族に心を砕くことはあっても、結局は『平和』という願望のためなら、簡単に切り捨てられる非道であると。きっと認識は正しい。しかし少々思い違いをしていたかもしれない。
 彼は今間違いなく、例えほんの僅かであっても、失った存在のことを悼んでいる。思っている。
 彼女は一度目を閉じ、開いた。桜色の唇から、凛とした声が漏れる。
「私は本来、貴方に呼ばれた騎士です。この矛は貴方のために或る。切嗣、私は――そう言ってくれるのをずっと、待っていました」
 切嗣が視線をやると、金髪の剣士は薄く、自分に向かって笑いかけていた。
「使ってください、私も全力で援護します。そして我らが手に勝利を」
「……ありがとう」
 可愛い騎士王さん。
 そしてセイバーは鎧を解いた。

「――いよいよだな」
 豪奢な鎧を纏った黄金の王は、満足げに口角を吊り上げていた。
 傍らに立つは鉄面皮の神父。しかし動かぬ水面のような眼差しは、確かに奥に強い光を湛えている。さながら、獲物を静かに狙う獣といったところか。動きはせず、冷静に相手を見定めているが、動いたときは容赦なく手不足もない。
「綺礼よ、おまえが待ち焦がれた邂逅だぞ? どうだ気分は」
 言峰綺礼は答えない。しかしその顔に浮かぶ笑みを見れば一目瞭然だろう。
「そういうおまえこそどうなのだ、ギルガメッシュ。えらくセイバーを気にかけているようだが」
 先ほどからギルガメッシュの視線は、離れた正面にいる青い騎士から離れない。まるでお気に入りの宝を愛おしむような目だ。
「あれほど美しく愉快な女もそうおるまい? ……だが身の程を弁えておらぬ。少し躾が必要だ」
「あまりやりすぎると嫌われるぞ」
「フン――貴様には関係のないことよ。おまえはセイバーのマスターだけ気にしていればよい」
「元よりそのつもりだ」
「心得ているならそれでよい。では――」
 あちらの算段も整ったようだ、そろそろ始めるか。
 そう言ってアーチャーは鎧を解いた。

 現れる魔力の光。足元には魔法陣のように、令呪の模様が青白く広がる。
 赤くその印を刻まれた、掌を翳す。己がサーヴァントの胸に。
 そのままずるり、と。
 手を体内へ突っ込んだ。

「あ――」

「――っ」

 小さな苦悶の声を挙げ、英霊は体を仰け反らせる。主は反対の腕で腰を支え、手を引き抜いた。帯がぐるぐると巻きつく。帯は金色の、魔力の結晶であるブロックに変わり、マスターの腕を侵食していく。
 やがて。
 二人は同時に腕を上げた。
 パキパキパキ、と、塊の割れる音。無骨なブロックが崩れていく。さながら、この世に生まれ落ちる雛鳥のように。
 刃先に誕生の余韻を、波紋を広げ――二つの宝具は眩い光を天上に放ちながら、現世に再び降臨した。
 衛宮切嗣の手に握られているのは、セイバーの宝具『約束された勝利の剣』。湖の精霊より授かった、星が鍛えた黄金の聖剣だ。
 対する言峰綺礼が手にするのは、ギルガメッシュの宝具『乖離剣エア』。天と地を分けると謳われた、神が作りし原初の剣。
 人が御するには巨大すぎるモノ。迸る魔力はそれぞれ測定の範囲外。
 ――お互い、相手にとって不足はない。
「行くぞ!」
「はい!」
 柄を掴み、地面を蹴って、切嗣とセイバーは弾丸のように突っ込む。
「遅れを取るなよ道化!」
「――――」
 三つの円柱と刃からなる、ぐるぐると回る奇怪な剣がそれを迎え撃つ。
 そして。
 最後の戦いが幕を開けた。



/Zero最終決戦をギルティクラウン仕様にしてみた
 正直すまんかった