目が覚めた。
少しして、外から流れてきた音が原因であると気付き、ギルガメッシュの機嫌は急速に下降する。
――雑種風情が、王たる自分の眠りを妨げるとは何事だ。
細い金色の髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
ソファーから体を起こし、ドアへ向かう。廊下を進む足取りも高く、速い。床に怒りをぶつけるような剣幕である。
音はどうやら、礼拝堂から発せられているようだ。
「忌々しい――」
文句の一つでも言ってやらねば気が済まない。
しかし冷静になって耳を澄ませてみると、どうやらパイプオルガンの音色らしい。ここは教会だ、あっても不思議ではない楽器である。誰かが弾いているのだ。
この教会には神父二人しかいない。自分が気配を読み違えるはずもない。なら。
「…………」
よく通る高音がいくつもいくつも重なった、どことなく厳かで柔らかな曲だ。神へ捧げる歌。聞いたことなど無論ないが。
――今は耳障りという程でもない。
そうして礼拝堂に通じる扉まで来た。観音開きで、今は閉じられている。
押して、開ける。
その瞬間、音がぴたりと止んだ。
「……また来ていたのか」
呆れたような声がこちらを振り向く。フン、と鼻で払い飛ばし、ドアをくぐった。
腕を組んで壁に凭れる。視線を向ける。そうすると神父服と、自分の好む色をした十字架が見える。
乱暴にされた戸は二つともきちんと閉まらず、ブランコのように行ったきり来たりを繰り返す。しかしギルガメッシュにはどうでもいいことだ。
「貴様のせいで我の眠りが削がれたではないか」
「大方、暇を持て余して惰眠を貪っていただけだろう?」
「……しかし、貴様が音楽を嗜んでいるとはな」
「私はこれしか弾けんぞ。本来は聖夜の曲だ」
無表情で淡々と、言峰は答えをよこしてくる。
そしてギルガメッシュもまた、つまらなそうな顔をしていた。
「――続けろ」
そう言うと、神父は自分の耳を疑うような顔でこちらを見返した。
「聞こえなかったか雑種。続けろと言っている」
「――これは驚いた。どちらかというと、おまえは賛美歌など聞きたがらないと思っていたぞ」
「音楽もまた贅の一つよ。その音色、悪くない」
少しの間だけ沈黙があった。
やがて神父は視線を下ろし、また鍵盤を叩き始める。
首を僅かに傾けて、金髪の青年は演奏者を観察する。
手は大きく指も無骨なのに、うまいこと奏でるものだ。澄んだ音が広い礼拝堂に響き渡る。いろんな意味でこの男が出しているとは思えない。
――ああ。
「……………………、」
きれい。
と。
何となしにそう呟いた声はオルガンに掻き消されて、誰にも届くことはなかった。
/天には栄え
初めて書いた言ギルでした。